児童発達支援/放課後等デイサービス/保育所等訪問支援 春日井市の「きのね」

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心が通じ合ったと思える瞬間

前回の療育コラム『映画「僕が跳びはねる理由」』で、「ちょっとだけ心が通じ合ったと思える瞬間」が支援者としていちばん幸せに思う、と書きましたが、忘れられないK君とのエピソードを記したいと思います。

K君は、私が保育士になって3年目、公立保育園で加配の保育士をしていた時に担当になった当時年長さんの男の子です。
自閉症と診断されていたK君、おんぶされるのが大好きで、穏やかなとてもかわいい子でした。
発語はほとんどありませんでしたが、一瞬しか見なかった物を再現したり、記憶力にすぐれていました。
そして、当時の私は知識不足で分からなかったのですが、かなりの感覚の過敏さを抱えていました。
あそびも感覚的な繰り返しあそびを好み、年長クラスの中での集団行動はなかなか難しい物がありましたが、私は無理に集団に入れようとはせず、K君に寄り添う支援を心掛けました。
当時は発達について知識がそれほどありませんでしたが、とにかく純粋なK君が大好きで、K君が抱えている不安の大きさを理解しようとしてるうちに、信頼関係は築けてきたな、という手ごたえは感じていました。

秋になり、運動会の練習が始まりました。
年長という事で、メインは鼓笛隊、K君は小太鼓になりましたが、参加できるようになるまで遠い道のりでした。
でも、K君の気持ちに寄り添いながら、少しずつ時間をかけて支援していく事で、リハーサルの時には私と一緒なら参加できるようになりました。
それでも、衣装だけは絶対に嫌がり、かっこいい帽子も一度もかぶることができませんでした。

当時は、彼の感覚の過敏さに気付けていなかったので、「どうしてかぶれないんだろう、どうしたらかぶれるんだろう」と一生懸命考え、あれやこれや試し、諦めませんでした。
もちろん、お母さんの希望もありました。今なら「無理してかぶる必要ないじゃん!」とすぐ思ってしまいそうですが、当時の私はとにかくがむしゃらに、一生懸命、彼の気持ちを理解し、何とか解決策を見つけたいと考えていました。

そして結局帽子を一度もかぶれないまま迎えた本番。
約1か月の過酷な練習期間を共に乗り越えてきたことで、私とK君の信頼関係はかなり強固な物になっていたと感じていました。
鼓笛隊が始まる前、整列している時にK君の頭に帽子を乗せてみると…
今まで断固として帽子をかぶるのを拒否していたK君が、私の目をじっと見つめ、少し微笑み、帽子をかぶってくれたのです。
「本当は嫌だけど、先生がそんなにかぶってほしいって言うんだったら我慢してかぶってやるよ」と言っているかのように。
そのまま、最後まで私と一緒に参加することができました。

これは、私の中で忘れられないエピソードとなりました。
あの時の、K君の少し微笑んだ顔を忘れることはできません。
「僕のこと、理解しようとしてくれてありがとう」と言ってくれたようでした。

当時の私は、彼の本当の生きづらさの原因を理解しきれていず、今思えば的外れな支援ばかりしていましたが、でも、彼の事を知りたい、理解したい、とは思っていました。
本当に理解することは難しくても、「ありのままの彼らを知りたいと思うこと、理解しようと思うこと」
それだけでも、生きづらさを抱えている子ども達が救われる瞬間があるのではないか、そう思えた出来事でした。

それから、私の支援の本質というものは変わっていないと思います。
大事なことを忘れてしまいそうになる時、K君のあの時の顔が浮かんできて、私を引き戻してくれるのです。

大切なことは、いつも子ども達が教えてくれます。